俺って―――― 馬鹿
フラフラと、呆けたような足取り。バッシュやユニフォームの入ったバッグが肩に食い込む。
あんなコトを、するつもりではなかった。
ただ逢いたかった。それだけだったのに……
何やってんだよっ 俺はっ!!
拳を握りしめる。
また、止められなかった。
情けなさに苛立ちを感じる。
美鶴は、俺から離れてしまうのだろうか? そして瑠駆真と―――
瑠駆真と美鶴、並んで立つ二人のシルエットが脳裏に浮かび、思わず息を呑む。
俺は、何をやっているんだ。
だが、いまさらやめられない。だって、止められないというのなら、蔦の方がもっと暴走している。
そうだ。ヤツを止めるなど、そう簡単なモンじゃない。
自分を止められない聡だからこそ、それはわかる。
「おかえり」
キッチンから顔を出す母にも上の空で返事をし、食事も無視して二階へあがる。
バスケを始めた聡を、母は快く思っていない。そんなことよりもまず、成績を安定させてもらいたいのだ。特に数学―――
中学までの成績を考えると、唐渓へ編入できたのは奇跡に近い。母としては、今後成績が落ちてしまわないかと、それがまず心配なのだ。
塾か家庭教師を勧める母の気持ちはわからないでもないが――― 正直ウザい。
突き当たりの自室へ向かう途中で、別の部屋の扉が開いた。
「熱心ね」
まったく感情の感じられない義妹の言葉。
「バスケットなんかに興味を持つなんて、思わなかったわ」
「あぁ そうかい」
程よくストレスの溜まった聡にとって、緩の存在は発火剤になりかねない。
今までにも、聡と緩は言い争ったことがある。大概は緩の横柄な態度や侮辱した発言に端を発していると聡は思うのだが、二人が言い争うと、決まって母が飛んでくる。そして、八割がた、聡が責められる。
小学生でもあるまいに、母に咎められたからといって剥れるほど幼くもない。だが、二人が言い争うと、母がやたらと不機嫌になる。
最近は特に苛立っているようで、ゆえに聡は、できるだけ緩とは関わらないようにしている。
しているのだが、なぜだが緩の方が絡んでくる。
どういうつもりなのか、何を考えているのか見当もつかない義妹を無視して、自室の扉に手をかける。
「大迫さん、このまま放っておくつもり?」
「あぁ?」
「それとも、あんな大勢の前で叫んだ言葉は、嘘だったのかしら?」
思わず振り返り、睨み返す。
だが、緩は臆しない。胸元で腕を組み、顎をあげてにらみ返す。
「おめぇにはカンケーねぇだろっ」
そう吐き捨て、背を向けて自室に身を入れた。
バタンッ!
怒りを叩きつけるような扉の音に、緩は瞳を細める。
「本当に……… 役立たずなんだからっ」
「聡なのっ?」
大音を聞きつけて階下から叫ぶ義母の言葉を無視して、緩も自室へと戻っていった。
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